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地域・まちづくり
SAWAMURAの働き方
伝統建築
2022.11.15
時代を超えて建物と向き合う。長く使い、後に残すための現場哲学。

建築は新しく建てるだけでなく、建てたあと「直す」「長く使う」「残す」ことも大切です。それを担うのがSAWAMURAの「リニューアル課」。オフィスや工場のメンテナンス・リニューアルだけでなく、歴史的な建造物の改修・修繕まで手掛けることも。

先代社長からお付き合いのある高島市の酒造「福井弥平商店」さまの復原・リニューアル工事を手掛けた下司さんに、広報チームが世代を超える建物への想いを伺いました。

ソリューショングループ リニューアル課
下司さん
 
新卒で建築コンサル会社に入社。地下街などの建設計画に関わったのち、現場監督職へ転職。土木、一般建築、木造住宅などさまざまな建物の施工管理を経験した建物のプロ。

決まったやり方の無い、伝統建築のおもしろさ

――今回はどのような工事でしたか?

福井弥平商店様の店舗部分のリニューアルと、茶室の修繕工事です。
まず店舗の方は、もっとこの建物を活かせないかなあと相談をいただきました。

店舗の奥には立派な梁が見える吹き抜けがあったんです。壁の位置を変えたり、天井を外したりが構造的にできそうなのは見てわかったので、「梁をライトアップして、店舗から見えるようにするのはどうですか」と提案しました。そこから自社の空間デザイナーにも相談して、リニューアル案が具体的に進んでいきましたね。

改修前。壁と天井で奥は見えなかった。

改修後。天井の梁や吹き抜けを活かしたデザインに。

茶室のほうは台風で壊れてしまった部分の修繕です。古い工法で作られていたので、京都から宮大工さんを呼んで工事を進めました。

 

――工事は大変でしたか?

大変よりもおもしろい現場でした(笑)

福井弥平商店さんからは「こんなことになっていて、どうしよう?」と相談いただき、こうしましょうという提案から任せてもらえたので、やりがいもありましたね。なので全然大変じゃなかったです!

茶室は伝統工法を活かして復活させた。

 

――ちなみに築何年の建物だったんですか?

分からん!(笑)

なにせ図面が残っていなかったので。推測ですが店舗の梁に使われていた木材は300年モノで、茶室もすごく歴史がある、たぶん100年は越えてるんじゃないかな。

柱から何から、どうやって作っているのかも分からないところは宮大工さんに確認しながら進めていきました。いい大工さんで、丁寧に教えてくれました。

茶室の屋根裏を開けて驚いたんですが、まっすぐな木材なんてないんですよ(笑)。例えば、長い木材は山なりに反りのある木材を選んで、別の細い材で上から刺して抑える。こういう工夫で、長い木材が乾燥して縮んでも大丈夫なようになってるんです。

 

――現代の工法とは全く違いますね

今のような規格通りの材料なんてないです。昔の建物は大工さんの腕次第で、同じものはふたつとない。だから修繕工事でも、当時の大工さんが木材に合わせてつくったように、その場その場で対応していく。

本当におもしろいですよ。若い頃この現場に出会っていたら、この道一本で進んでいたかも知れない。それくらい興味深い建物で、おもしろい現場でしたね。

 

無数の選択肢から、お客様に合った提案を

――リニューアル工事でのこだわりはありますか?

こだわりというよりも、お客様のニーズを大切にしています。

というのは、改修工事って、とても選択肢が多いんです。

今回の茶室の工事でも、現代的な改修工事で一新するのか、伝統工法を引き継いで修繕するのか。また修繕範囲は全面なのか、必要な箇所だけなのか。かかる費用も出来上がりの形もさまざまです。その中からお客様のニーズに合わせて提案していきます。

今回は台風被害による屋根の雨漏りが一番の課題だったので、伝統工法での屋根修繕をメインに提案しました。例えば軒は、柱なしで1m以上垂木が跳ね出しています。これは母屋を支点に長い垂木を伸ばし、棟木のところでおさえて、梃子の原理で支えています。屋根全体でバランスを取っているので、部分的に壊れてしまったから部分的に修繕する、とはいかなくて、全体的に改修する必要がありました。

その代わりに、建具など、そのまま使えるところはほとんど手をつけていません。部分的な補修で残せるところは残すようにしました。

 

――改修や修繕と聞くと「元通りに直す」イメージですが、本当に幅が広いんですね。

長いお付き合いになるからこそ、何を課題に感じて工事をするのか、長期的な改修予算はどうなのか。ひとつひとつがお客様の状況にあった提案になります。気兼ねなくお話しいただくためにも、特にコミュニケーションを大切にしています。

頻繁に出入りしていると、お困りごとを耳にしたり、道であったら声をかけてもらうこともあります。蛇口の故障とか、ちょっとしたことでもご連絡をいただくので、とりあえず駆けつけられるものはすぐ駆けつけるようにしています。

何度もお仕事をさせてもらううちに信頼をいただけて、嬉しい半面、時々プレッシャーを感じることもあります(笑)

 

建物への思いやりが何より大事

――改修工事は新築より難しいとも言われますね

改修工事って古い建物ばっかりなんですよ、倉庫とか蔵とか。実際にどんな施工をされているかは見えないことがほとんどです。雨が漏ったり、壁が崩れたりとか、問題が起こった時に、ありそうな原因をどれだけ想像できるかが肝心です。いくつかの可能性を自分の中で整理して、実際に壁を外して「やっぱりここが悪かったな」と確認して。たまに「え!?こんなことあるんや」と驚くようなこともあるけど(笑)

雨漏りの原因を突き止めるために雨の日に訪ねたら、思っていたところとは違うところや、完全に予想外のところから漏れていることもある。検証のために、日を変えて何度も現場に行ったりね。そういう意味では、新築よりも現場を出入りする回数も多いかもしれませんね。

あっちをおさえたらこっちが悪くなるかも、とか。先回りして想像しながら上手くやっていく必要がある。建物への思いやりが大事、と言ったらその通りなのかもしれないですね。

 

これからのSAWAMURAへ
今までのお客様を大切にするということ

――福井弥平商店様の今後について

最近はお酒のネット販売などもありますが、リニューアルした店舗でのコミュニケーションも活発になってほしい。地域の中で酒造りをされてきた伝統を、これからもずっと継いでいってほしいです。そしてSAWAMURAもずっと寄り添って、建物についてはお手伝いを続けていければと思いますよ。

 

――SAWAMURAのこれからについて

若い社員もたくさん増えて、新しい挑戦が進んでいますね。そして同時に、今までのお客様とのお付き合いも続いていきます。それらを同じ重要度で、計画的に進めていくことが大切です。そのためには、会社の中に足元を固める人間がいることが必須です。

それに、オーナー様から気軽に声をかけてもらえる関係性はこれからも継続していきたいです。(今日も電話がかかってきて、ちょっと見に行く予定の下司さん)

僕も昔は、マンションの新築など不特定多数の相手に対して大きな建物を建てることにやりがいを感じていたけど、今は1人のお客様に合わせてとことん突き詰めていく方が自分に合っているなと思います。若い頃はこんなこと考えたことなかったけど(笑)

工事をして無事お引渡しできた時に、「ありがとう」と言われるのがやっぱり嬉しいですよ。

 

――これから改修工事を担当していく後進に向けて

改修工事は色々な観点から、決めつけずにたくさんの可能性を残して進めていくのが良いんだと思います。だからもし、自分が後輩に指導することがあれば、「これはここを気をつけた方がいいよ」とアドバイスをしながら、最終はその場で判断を任せる。こうして経験を増やしてもらいながら、困った時に思いつく可能性や選択肢にプラス1本を加えられるように、指導というか、サポートもしていきたいです。

若い人はもしかしたらスカッと建て替えるのが良いと言われるかもしれないけれど、改修には昔からの想いや伝統を守っていく意味もあります。建てた時の想いや、企業の伝統を残しつつ、使いやすさをプラスしていきたいですね。

 

福井弥平商店

山紫水明の地・近江高島で創業270年の歴史を誇る老舗の蔵元であり、銘酒「萩乃露」の醸造元。店舗では、旬の日本酒や蔵元でしか手に入らない限定酒や、国産果実酒を使ったさわやかなフルーツリキュールなどの購入ができる。

公式WEBサイト https://www.haginotsuyu.co.jp/

 

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