ソリューショングループの設計課で設計業務に取り組む德永さん。業界の中でもいち早くBIMに取り組み、社内への導入・活用プロジェクトを推進しています。今回は、BIMで仕事のやり方がどう変わるのか、そして働き方がどう変わっていくのか、BIMを通して描く未来について伺いました。
德永さん
ソリューショングループ 設計課
2017年にSAWAMURA入社。オフィスや工場の設計に携わりながら、2019年からBIMの導入プロジェクトを担当し、運用の中心的メンバーに。2020年にはBIMスペシャリストの認定を取得し、BIMの普及を進めるための講演活動も意欲的に行っている。
BIM(ビム)
BIMとは、Building Information Modeling(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の略称。コンピューター上に現実と同じ建物の3Dモデルを再現し、設計・施工や維持管理までのあらゆる工程でデータベースとして活用するための仕組みのこと。また、それらを活かした建築の新しいワークフローも含めてBIMと呼ばれる。建設業DXの最重要ポイントとして注目されるが、思うように導入が進まない企業も多い。
―本日はありがとうございます。最初に、德永さんがSAWAMURAに入社するまでの経緯を簡単に教えてください。
近畿大学を卒業後、大阪の設計事務所に就職しました。そこで個人向けの住宅やこども園などの設計を担当していました。その後人材会社様を通じてオファーを受けて、SAWAMURAにお世話になることになりました。
―入社を決めた理由はなんですか?
色々とあったのですが、一番は「自分がやりたい設計を、自分の責任でやらせてくれる」点です。自分自身の色とお客様のご要望を合わせて、理想とする建築ができる可能性を感じたのが、とても魅力的でしたね。
―德永さんにとって、自分のやりたいこととお客様のご要望との間のバランスを取るための考え方のベースみたいなものはありますか?
学生時代に、建築家の伊藤豊雄さんの考え方に触れ、大きな影響を受けました。彼の言葉に「消費の海に浸らずして新しい建築はない」というものがあります。簡単に言うと、お客様のニーズや課題解決にならない建築は間違っているよ、といったニュアンスなんですが、当時(1989年)はバブルがはじける前後で、建築家が自分たちの作りたいものを作りたいだけ作れた時代に一石を投じた言葉なんですね。
学生時代に読んで衝撃を受けて、今でも大切にしている価値観になっています。
―改めての質問になりますが、BIMとは一体どのようなものなんですか?
基本は図面やパースを作成するモデリングソフトなのですが、それだけでなく、図面情報を「見える化する」「正しくする」「創り出す」ところに鍵があります。
どういうことかと言うと、工場などの建物を設計する際には、非常に多くの情報を扱います。
「この部屋は何㎡?」「窓の大きさは?」「床仕上げは?」など、これまでは図面を書いてから測ったり追記したりしていましたが、BIMの場合は、ひとつひとつの線や面が情報を持っているので、測らなくても「この部屋は何㎡!」とわかりますし、ミスも無くなります。また、坪数や体積なども引き出せて、それらを使用する人数で割ると1人当たりの面積が計算できる、という風に、情報を創り出すこともできます。
そうすることで今までみんなが電卓を叩いていた時間や、図面の整合性を何時間もかけてチェックしていた時間が削減され、効率が一気に上がります。
さらに、BIMの機能を拡張するような、様々な設計や施工のツールも出てきています。他にもSNSのように、様々な関係者が情報を共有、交換できる技術プラットフォームとしての魅力もありますね。
実際にお客様に提案したパース画像
―BIMの面白さというか、具体的にどんなことができて、今までの設計業務と大きく変わる(変わりそう)な部分を教えてもらえますか?
たとえば、天井の高さは?壁の仕上がりは何?空調は何馬力必要?といった項目それぞれについて、難しい計算をしなくても結果を確認できるのがBIMの具体的なメリットです。
また、それらの応用で最適な土量を計算し、最も効率の良い設計地盤面の設定をするなど、これまでにはできなかった3D数量算定によるコスト+工期圧縮・最適化などまでできるようになっています。ではそれの何が楽しいのか、面白いのか?
最大のポイントは、業務効率化そのものというより、それによって時間が生まれ、もっと面白い、楽しい、美しい建築やクリエイティブに取り組める、ということだと思っています。
BIMによる「効率化」によって生まれた時間は、より良いものを生み出す、よりやりがいを感じる「非効率」な時間に使いたい、そしてより価値のある物を生み出すのが、目指すべきDXと考えます。
また、拡張ツールを活かして、アルゴリズムでデザインしたり、熱負荷検証をしたり、美しいパースが即座にできたり、今までにない設計手法に取り組めるのは面白いですね。
―BIMを活用することで、お客様にとってもメリットがありますか?
ひとつは設計内容が3Dでわかりやすくなることです。今までの2DCAD+3DCADの合わせ技でもできますが、図面を書けばそのまま3Dが立ち上がるBIMなら、手間なくお客様とビジュアルを共有できます。設計段階で3Dを確認しているので、完成後に「イメージと違った」みたいなことが無くなります。
また、ガス配管が必要な設備はどれ?建物の外壁の保証期間はいつまで?クロスに傷ができたので張りなおしたいがその品番は?といった様々な情報を、これまでは図面を読みこまないとわかりませんでしたが、アプリで簡単にわかるようになりました。こういったことは施主様にとっても時間削減になり、メリットとして感じてもらえると思います。
図面の中にガス配管が必要な設備をハイライトできる
―現在のSAWAMURAでの、德永さんのミッションは何ですか?
質の高い設計と、BIMのさらなる推進だと思っています。入社した頃は倉庫や工場建築がほとんどでしたが、その中でも枠に収まらない変わった案件を任せてもらうことが多かったように思います。もちろん大変な面もありましたが、おざなりに対応するのではなく、自分のオリジナリティを出しながら課題解決することを意識して対応してきました。
BIMの推進についてはSAWAMURAと外部とのハブとして、情報を持ち帰ってくる役割があります。それらをかみ砕いて、社内の各組織にどう活かすか、というところまでが、運用面のミッションだと思って取り組んでいます。
―BIMをSAWAMURAに浸透させていく上で、印象的なエピソードはありますか?
日本のBIM元年は2009年と言われていて、SAWAMURAのBIM元年はそれから10年後の2019年。これでも地方の建設業としては相当早い導入でした。投資としても結構な金額になりますし、自分のキャリアの中でもそういったシステムの導入は未経験で、もちろん成果も求められる、プレッシャーはかなりありましたね。
当時は滋賀県でBIMを導入している企業がまったく無かったので、最初の情報収集にもとにかく苦労しました。いまほどオンラインの講座が普及しておらず、ほとんどの講座が東京など都市圏での開催。日々インターネットの掲示板に質問を投げては、的を射ない回答をもらってもやもやしたり(笑)英語のサイトを翻訳して勉強したりしてましたね。
―かなり苦労されましたね(笑)
ほどなくしてコロナ禍が始まり、オンライン講座などが増えていったので学習についてはずいぶん楽になりましたね。そうしていくうちにだんだんとBIMのメリットを活かせるようになってきて、自分の作業時間の計測にはなるんですが、初期提案はだいたい40~50%、2回目の訂正であれば60%近く時間短縮が図れるようになりました。同時にパース図も作成できるようになっているので、業務効率や生産性は格段に上がっていますね。
―作業時間が40%以上削減されるというのはすごいですね。
周りの方からは「德永がすごく成長したぞ」と評価していただいたんですが、僕個人としては「BIMのおかげなので、もっとBIMの凄さを評価してあげてほしいなー」と複雑な心境になりました(笑)。
―SAWAMURAで実現していきたいことはありますか?
建築やものづくりの面白さをもっと広めたいなぁと思います。より質の高い設計を追い求める先に、会社や社会からも評価される、魅力的な設計士像があると思っていて。そのためには「半端じゃないもの」を作りたいですね。個人的には衣食住が合体した「生活」をテーマにした建築が究極だと考えているので、旅館なんかを設計してみたいです。あとはやっぱり社会的に大きな意義を持つもの。海外拠点を開設して、井戸を掘って村を作って学校を建てたり、とか(笑)。
―壮大すぎる目標ですね(笑)。これからSAWAMURAの中に浸透させていきたい価値観はありますか?
非効率を楽しむマインドは浸透させていきたいですね。そのためには、矛盾しているようですが作業効率を上げる取り組みも必要です。贅肉である無駄はとことん排除して時間を生み出し、その上で非効率を楽しめるような筋力を、トレーニングを通じて鍛えることが重要だと思います。
やっぱり設計事務所時代に培った仕事への価値観、っていうのは大きくて。当時はまだ時間なんて気にせず、とことん打ち込むのが当たり前だと思っていました。でもいまその価値観ではやっぱり立ち行かない。だからBIMを活かした新しい働き方で僕自身もアップデートしながら、それを浸透させていきたいです。
BIMを活用することで、設計の面白さとか、モノづくりの魅力とかそういった部分にもっともっと時間を費やして、それを目いっぱい楽しんで。そんな先輩の姿を見て後輩たちが憧れてくれるようになれたらいいな、と思います。
設計の仕事の中にある“めんどくさい”を半分にして、“楽しい”を倍にする、ってイメージですかね。
Interview&Text: SAWAMURA PRESS編集部